今年も2月の20,21,22日の三日間、東京永田町の都市センターホテルにおいて、12年目を数える事になりました「東京獺祭の会」を開催しました。今年は一日平均の登録者数が600名平均になってしまい、しかもほとんどキャンセルゼロの状態で開催する事になりました。 参加した皆様にはずいぶん窮屈な思いをして頂いたわけです。 しかし、その窮屈な思いも定員オーバーで出来なかった方もたくさんいました。申し訳ありません。

毎年、参加した皆様の「社長の長い話は早く止めて、早めに飲ませろ」という目線にもめげず、その時、その時、皆様に伝えたいことをストレートに精いっぱいお伝えしてきました。今年はこんな話をさせて頂 きました。それでは以下からどうぞ。

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皆さん、こんばんは。旭酒造の桜井です。まず、こんなに狭いすし詰め会場になってしまい、申し訳ありません。実は定員でネット受付が終了するようにソフトができているのですが、開始後数十分で満員という短時間であった為、定員オーバーで受付閉鎖時点においてお名前とかを書かれている最中の方も受付ける形になりました。そのため、定員をはる かにオーバーする数を受付ける形になりました。このようなすし詰めになりましたが、同時に、皆様以外に間に合わなかった多くの方から、入 れないというお叱りをいただいております。ということで、狭い会場ではございますが、ご容赦いただけますと幸いです。

さて、今年、よほど断れない関係以外はみんな断っているのですが、昨年私は100回近い講演の機会を得ました。大は1000名を超え、5~600名規模も10回近くあったと思います。つまり、一万人は軽く超す方に私のしょうもない話を聞いていただいたわけです。アルコール業界において売り上げシェアが6%を切ろうかという日本酒業界でありますから、これは日本酒業界にとって良いプレゼンになり、私に課せられた任務と思ってこなしました。

その席で必ず話す話があります。日本酒と伝統ということです。文献等によるとおおよそ室町時代に麹で米を糖化させ、そこに酵母が取りついて発酵するという現在の日本酒のスタイルが出来上がっています。ところがその文献通りに日本酒を造ると、今の日本酒とは似ても似つかないものができるのです。ワインでしたら数百年前から変わらないということを誇るのに、、、ですね。

これは理由がありまして、日本酒は杜氏という職能集団を持つことができたことが大きいのです。もっとも、よく御存じのように私どもは杜氏に逃げられてしまい、社員による酒造りという道を選択しておりますが。

そんなことはどうでもいいですね。実はこの杜氏たちが、経営者でもないオーナーでもない、ただの雇われ人なのに、自らが酒の仕上がりに責任を持ち、工夫し改善してきました。その努力が営々として数百年続くことにより今の日本酒が出来上がったのです。皆さん、ただの米と水で造るにも拘らずこのような果物のようなかぐわしい香りを持つお酒が他にありますか。

これが他の国、文化・社会のもとで、たとえば非常に階層社会のきついところで、こんなことがなしえたでしょうか。つまり、労働者達にこれだけの工夫や改善へのモチベーションを持つ事ができたでしょうか。

ですから、日本酒にとって伝統とは手法の改善であり工夫であり改革なんです。だから私たちは新しいことに挑戦することを恐れないのです。 ただしそれは、もちろん、少しでも美味しい獺祭をお客様にお届けするという意思のもとではありますが。

そのために、私たちは皮肉なことに杜氏ではなく社員による酒造りを取り入れ、地酒にとっては前代未聞の四季醸造を取り入れ、売らんかなのコマーシャルベースの酒に背を向けてただ一心に美味しい酒を追いかけ るのです。

そのための手段の一つに米があります。「獺祭が山田錦を買いすぎる」 という批判や「県の開発した酒米を使え」といった圧力にもめげず、美味しい酒を造るためには第一条件と考える山田錦という米しか使いませ ん。そしてその山田錦の増産に向けて全国を飛び歩いてきました。

よく私は「山田錦の全国生産量60万俵を目指そう」と言ってきました。 正直、最初言い始めたころ、とても達成できそうな数字には思えませんでした。でも、この前、農水省の統計を見て飛び上がりました。そこには昨年の山田錦全国生産量48万俵と書いてあったのです。農家の皆さんの顔つきも変わってきました。このままで行くとおそらく一・二年で60 万俵達成しそうです。

「山田錦を増産して何が良いんだ。あんたの話はさっぱりわけがわから ん」と昨日もある酒蔵に批判されましたが、酒を造ることによって日本の農業を活性化させたい。そして美味しい獺祭を皆様のもとへお届けし たい。皆様もぜひ獺祭を飲んで農業の活性化を後押ししてください。

本日はありがとうございます。

以上です。あまりの参加者数に色々反省点も見えた「東京獺祭の会」。 来年はさらによりグレードアップしてそのあたりの反省を生かした会にしたいと思います。来年もよろしくお願いします。