この度、東京の三越恵比寿店に獺祭Storeをオープンしました。新規開店の広報は三越側のお知らせとSNSだけの静かなシークレットオープンでした。それでも、目敏い方たちが開店と同時に来られて、それなりに活気あるオープンになりました。

最近、イ○ンなどのグループで三倍以上の値付けで獺祭が売られています。派手に広報すると、そのプレミアム販売の供給源になっていると思われる転売業者なんかが集まってきて、一般のお客様が買えなくなることを心配したことが、シークレットオープンの理由です。そのために、一升瓶も当面置かない方針です。そのあたりご理解いただけますと幸いです。

ただ、流石、恵比寿という土地柄、高いものから順番に売れていくという状況で、びっくりしています。スタッフも今回、都内の百貨店の経験者ぞろいですが、恵比寿という土地柄・・、三越という百貨店のブランド力・・、 「すごいもんだなぁ」と再認識しています。

実は恵比寿には、日本酒は唯一「獺祭」しか置いていない、 あの世界で合計20以上のミシュランの星を持つ、フレンチの 神様・ロブション!!が日本旗艦店を置いており、私どもにとっては無視できない場所です。

以前から三越恵比寿店には「獺祭」を販売して頂いていたのですが、ご存じの最近の状況で棚に品切れのことが多く、ロ ブションで飲んだお客様たちからも「どこに行ったら買えるの?」なんて問い合わせが三越に来ていたようです。そんなことから「何とかならないか」という申し入れを受けていたものです。

ただ納品数を増やして対応するにも、同じように品不足に悩んでいる他のお取引先のことを考えると限度があります。 だからと言って地政学的に重要な(大げさですね)、恵比寿で「獺祭」が買える場所がないというのは問題です。どうしたものかと悩んでいたんですが、「直営店で行こう」と思いつきました。

実は、需要にこたえられない深刻な品不足の中で、ほのか見えているものがありました。ただの商材としてしか「獺祭」を見ていない取扱店が、当たり前ですが、やっぱりいて、それが悪評判の原因になっている現実です。

今までほとんど売っていなかったのに、評判になると急に大量発注してくる酒販店。そして、「なぜ、古くから取引しているのに注文に応えない」と、今更の大量注文に応えきれない、弊社のスタッフを責めたてる酒販店。この際、「獺祭」を何とか手に入れてほかの取引先から「獺祭」が入っていた飲食店を奪おうとする酒販店。

こういう酒販店は出しても出しても、一般のお客様より、このチャンスに他取引の飲食店などを奪おうとするほうにウェイトをかけますから、なかなか一般のお客様に「獺祭」は回りません。それどころか、結果としてこういう叱責を受けることが多々あります。

多いパターンは、そのお客様が行かれた酒販店の店主が、近くの大型店を顎でしゃくって、「あそこの百貨店なんかにはたっぷり入るけど、うちみたいな小さい店には「獺祭」の配分なんてないよ」とお客様に蔵元の不公平をアピールする(それまでの実績からすると相当入っていると思いますが)。それを聞いた、正義感溢れる、お客様が「真面目に正しく」私どもにクレームをつける。

また、「他の酒を何本か買ったら「獺祭」を売ってあげる」と抱き合わせ販売に走るお店。明白な契約違反ですが他の流通業者に横流しをする店(実は、イ○ングループの仕入れ先がこんな店でなければいいのだけどと、気になっています)。すべて、蔵元の努力だけでなく、正当な大部分の取扱店の努力も台無しにする存在です。分かったときは抱き合わせ販売中止のお願いや、目に余る時は取引停止などの処置をとっています。しかし、「誰がどこで」と明白にわからないのが大半で、摘発したり罰したりするのが私たちの仕事ではありませんから、対処のしようがないのが現実です。

そんな中で、良い話は業界からは出ませんから、結果として、「獺祭は機械の力で大量生産して、山田錦も買い占め、他の酒蔵や小さな酒販店がどうなろうとも、売れる大型流通や大型地酒専門店にだけ売って、金のためなら何でもやる」という評判や印象が、業界通を自称する方たちや業界マスコミの中で色濃く流れるわけです。(そんなマスコミに限って広告や協賛依頼を平気でして来ますが・・・わかりませんねぇ)

と、まあ、これらの話は全部、うちに届いた実話やクレームです。しかし、皆様ご存じのようにお客様とか市場というのは、こんなに意地が悪かったり頑迷だったりしません。だけど、、、「業界の空気なんて読むな!!無視してしまえ!! ただし、世間にどんな話が流れているかは注意しろ(なぜなら旭酒造は日本という同質社会の国に本籍があるわけですから、国を捨てるわけにはいかない)」と、言ってる蔵元としては、こういう風な逆風があるのに対し、何かしなければな らないわけです。

その何かとは何をやらなければならないか。それは、「獺祭」の世界観を伝えることを努力しろということです。どんなに 一部悪意ある人や本質の見えない人がいて誤解されていても。

ところが、世界観を伝えるということになると、従来の取扱店だけでは、無理があります。酒販店もそうですし、百貨店や高級食品スーパーも自分たちの世界観を伝えることはできても「獺祭」の世界観を100%伝えることはしません。

たとえば、三越伊勢丹グループや高島屋のカバン売り場は一流と思いますが、ルイ・ヴィトンは置いてないですね。エルメスも置いてませんね。ルイ・ヴィトンやエルメスは自分たちが直接お客様に伝えないと、自分たちの世界観を伝えられ ないと思っているんだと思います。

そんなことから直営店出店を決断しました。これは既存取扱店と対立するんじゃなくて、忙しくて既存取扱店にできなか った「獺祭の世界観の伝達」というめんどくさい仕事を酒蔵が直接引き受けることにより、取扱店の販売応援にもなると考えているからです。

お時間があれば覗いてみてください。ただ、できれば、お買い上げはご贔屓の獺祭取扱店で。 なるべくということですが…、よろしくお願いします。