この11月4日にNYソーホーのパーラーにて「NY獺祭の会」を開催しました。キャンセル待ちもいましたし、当日は150名以上の参加者で会場は立錐の余地のないほどでした。 獺祭好きのアメリカ人が半分ぐらい、後はアメリカ在住の日本人でしょうか。もっとも、日本人に見えても日本語の話せ ない方もいましたから日系・アジア系米人もかなり参加いただいたようです。NY総領事の高橋大使にもおいでいただきましたし、なんと、一昨年チャリティーボトルのラベルに使わせていただいた富士山の写真をライフワークにする写真家のテラウチマサトさんは日本からこのためにわざわざ駆けつ けてくれました。

アメリカ人ではありませんが有名なテクノミュージシャンでDJのリッチー・ホーティンさんも途中参加。 とにかく、皆様に感謝。(リッチ―さんは、日頃はプライベートジェットでヨーロッパを飛び回っていますが、羽田岩国便のエコノミーに収まって酒蔵に来訪いただいたこともあり ます。もっとも、その頃はプレミアムクラスのない便ばかりでしたから当たり前ではありますが)

会は、まさに、「エキサイティングでグレートな会」だったと思います。2003年秋の最初のアメリカ訪問から13年、よくここまで来たなぁ。まさにその時点ではゼロからですから。

(2003.11.14配信の蔵元日記Vol.71をご覧ください。 ちなみに、この号の冒頭の書き出しはアメリカのフリーウェイ横に立つミュージカル「マンマ・ミーア」のアメリカサイ ズの大きな立て看。女優さんの素晴らしい胸に目が吸い寄せ!!られるところから始まります・・・(あぁ、恥ずかしい!!!! 私の品性が表れていますよね)

まぁ、私の品性は置いといて・・・?異文化の中で開催する会です。日本でやるなら日本人同士ですから「話さずともわかるから必要ない」というところがありますが、異文化圏で私たちの想いとか根本的なものを理解してもらうには、言葉の力は大切です。と、言うか、「語るべき何か」を、「獺祭とは何か」を、こちらが持っているか、ということが重要に なります。

こんなことを話しました。以下、その原稿です。

本日はようこそこのNY獺祭の会にお出でいただきましてありがとうございます。

皆様は非常に幸運な方ばかりです。なぜなら、NYで、たった150名しか参加できない、この特別な会を楽しむことができるからです。

私はよく、「獺祭は最高のものにしか興味がない」と話しています。

日本酒は米と水からできるわけですが、最高の酒米と言われ、酒米の帝王と言われる山田錦しか使いません。

そして、純米大吟醸という精緻な最も手のかかる造り方しかいたしません。それはオートメーションでできたりするものではありません。

この写真のように100名の経験豊かな若者たちが精魂込めて造っているのです。彼らは年に1000回以上の仕込みを行い、 伝統的な酒職人である杜氏たちが一生涯で経験する以上の仕込みを一年で体験する日本有数の純米大吟醸造りのプロフェッショナル達なのです。

彼らによって注意深く造られた獺祭は、日本のみならず、このアメリカでも大きな評価をいただいております。

この5月に日本の首相である安倍総理が同盟国であるこのアメリカの地を訪ねました。総理を迎えてホワイトハウスで開催された公式晩餐会でオバマ大統領は獺祭を持って安倍総理をもてなしてくれたのです。

ホワイトハウスにおける公式晩餐会で日本の酒が使われたのは獺祭が歴史上初めてなのです。選ぶにあたっては、史上最も若いアメリカ大統領であり、当時若かった我々のような日本人にとってもヒーローだったJ.F.ケネディ大統領の長女で あり駐日アメリカ大使であらせられるキャロライン・ケネデ ィ大使の推薦が大きかったということも聞いております。

私たちはこの栄誉に対し、深く、アメリカ合衆国およびアメ リカ国民の皆様に対し感謝しております。この素晴らしい栄誉をいただいた獺祭、ぜひ、皆様楽しんでください。

そして、獺祭は美味しさの層が重層に重なり、皆様の前にいくつもいくつも魅力と感動の扉を準備しております。注意深く飲んでいただければ重層的な美味しさの扉が皆様の前に現れてきます。その扉をすべて訪れていただきたいのです。

私は、皆様と幸福な時間をこれから共有できますことを感謝しております。 ありがとうございます。

と、まぁ、こんなことを話しました。

「海外にうちの酒は出しません」という蔵元もいますし、「こんなに足りないのに、海外に出すな」と言われる方もいますが、海外に輸出するということは異文化とぶつかるということです。それは「酒とはなにか、何たるか」ということを必然的に酒蔵に突きつけるという面があって、それは売上利益という直接的なものだけでなく、「獺祭の世界観」をさらに強化し洗練させることにつながり、国内の皆様に対しても「持って帰れるもの」「お返しできるもの」が大きいと考えています。また、同じ醸造酒としてワインともろにぶつかるわけですが、競争のないところに成長はないと考えていま す。

山口の山奥の小さな酒蔵の世界への挑戦、もう少し見てやっていてください。

◆NY獺祭の会立役者◆

実はこの会の担当責任者は弱冠二十?才の女子社員の斉藤明日美で、彼女がNY担当者として直接のお膳立てをしたのです。しかし、いまだかって単独で酒の会など開いたことのない、したがってどこの会場が適しているかも、どこに集客の窓口を設ければいいかも、会費はどの程度に設定すればいいかも、 料理はどんなものをどこに頼めばいいかも、ケータリングなのか、料理の提供能力のあるホテルが良いのか、グラスをどうするのかもetc,etc、難問山積。

日本の酒蔵にとってはわからないことばかりのニューヨーク で、持ち前のバイタリティーでいろんな課題をクリアして、何とか開催に漕ぎ着けてくれました。もちろん私は、旭酒造の自称「天災社長」ですから、そんな苦労はお構いなし。 経費や彼女が苦労して組んだ計画の細部にいちゃもんをつけたことも多々あります。

めげずに、「NY獺祭の会」を成功に導いてくれました。 彼女に感謝と称賛の拍手を送りたいと思います。