(新年早々長いです。長いメールの嫌いなホリエモンに怒られそう)

明けましておめでとうございます。 昨年は私どもにとってもめまぐるしい年でした。まず、32年間務めた旭酒造の社長のイスを長男に譲り、会長になりました(何も言わず黙って座っているだけで、「よく黙っていたね」とほめてもらえ るという珍しい経験をしています)。

次に、ここ数年の懸案であったパリ出店が、あの天下のフレンチの神様ロブションから声がかかり、両社で組んでパリのサントノーレに共同店舗を出店という、願っても無い形で具体化しました(ワインみたいな酒にしなくても日本酒があるがままの姿でフレンチの世界から評価されたということです。今はこのことの持つ意味をあまり感じない人が多いでしょうが、これは日本酒の将来にとって大きな意味のあることです)。

しかし、良い事ばかりではありませんでした。一番の問題は、こんな山奥の酒蔵のくせに、大企業病にかかり始めていること。実は、夏には一部の酒の需要予測を誤り不良在庫化させ劣化させてしまいました。同じ問題でこの年末の需要期に獺祭の需要予測を間違い品不足を引きおこしてしまいました。性懲りもなく秋には別の原因ですが品質劣化問題をまたおこしました

すべて、当事者からすると「仕方のないこと」の積み重ねの結果で「自分たちの責任ではないこと」のつもりだったと思います。そしてそれは、酒造業界では普通は「この程度のことは仕方のないこと」としてトラブルではなく普通の状態で受け入れられそうな話です。しかし、旭酒造としてみたとき、すべて起こらなくてもよい、今までは回避してきた、今回も回避できた「はず」の失敗でした。

ここ数年、社内組織の確立を図り、集団指導体制を製造部門に取り入れてきました。そして技術的蓄積も図ってきました。愚かにも日本でもトップクラスの体制だと信じていました。それが組織の弱体化と担当者個々の無責任体制につながってしまったのに気が付きま せんでした。

実は、こうなる前は「ど」素人の集団で、組織もいい加減なものです。何の知識も持っていません。だから、行けと言われれば前に進む、それがうまくいかなければ修正する、そんな、一見かっこ悪いけど実戦に強い集団でした。それがお公家の集団になってしまっていたのです。新しいこともなんだかんだ理由をつけてしないし、危機が予想されても何も手を打たない、反対に何かやって失敗することを恐れる。そんな集団になっていました。

この結果に、途中でサインが出ていたにもかかわらず見逃した自分に、蔵元としての自らの甘さに、只々、慄然とし、もぐらたたきのように次々起こる個別の問題・欠陥に対処するだけで精いっぱいの情けない状況に、ただオロオロするばかりでした。

そして、師走のこの忙しい時に皆様をお騒がせする事故を起こしました。このことをお詫びしなければなりません。

NHKや民放各社、そして各新聞社で報道され、皆様にもご心配をかけました「虫混入による獺祭磨き三割九分の720ml製造年月16.10.Dの瓶詰商品の回収」が発生したことです。申し訳ありません。これも同じところに問題がありました。

私どもの製造設備は、事件後立ち入り検査をしていただいた保険所の方からも「衛生面で必要と思われ、思いつくことは全部していますね。普通、こんなことで回収までする酒蔵も聞いたことがないですね」とビックリされたごとく、徹底的な異物混入対策、そして教育に時間をかけています。

しかし、どんなに理想的な製造設備でも教育システムでも、設備や知識に頼るだけの人材ではトラブルは防ぎきれません。虫の混入は 起こってしまったのです。おそらく空瓶に酒を充填して打栓するまでのわずか数メートルの間に、しかもクリーンブースになっている部屋に侵入して、虫がその一本の問題の瓶に飛び込んでしまったの です。信じられない確率を突破して飛び込んだのです。

しかし、事故発覚後、再度ラインを見直して出てきた話ですが、それなら充填機からキャップソーター(王冠供給器)に行くまで待たず、充填後即座に人が手でライン上の瓶にキャップを被せればいい、そうすれば虫が入る確率はたとえクリーンブースまで侵入されていたとしても可能性はほとんどなくなる、ということだったのです。何でこんな初歩的なことに気が付かなかったのか。何で機械に任すの、機械を組んだのは人間ですから欠陥があるのは当たり前なのに、みんな思考停止状態になっていたんですね。

すべて同じことです。機械を万能視する。会議を繰り返して衆愚体制になる。

全部、泣きながらある意味ぶち壊しています。 もう一度再構築します。

そして、再確認したことがあります。マスコミに流れてから酒蔵にかかってくる電話は厳しいものがありました。ネットに上がっている発言も初日は厳しいモノばかり、感覚的にいうと98通は非難の意見、2通が冷静な意見。ところが、翌日になると「これを奇貨として 努力しろ」といった好意的な意見が8割を越してきました。

ありがたいなぁ。これを見て思ったのは、旭酒造の酒造りが間違っていないこと、5℃の部屋で一日黙々と10トン近い白米を洗ってる洗米担当者、38℃の部屋で麹の育成作業に昼夜かかわっている麹担当者、若い社員たちがしてきた酒造りが危機の酒蔵を支えてくれた。 そんな思いです。気が付いたら新社長の朝礼の終わりの社員に向けてのお辞儀が、より深く長くなっていました。

今年も、こんな失敗だらけの酒蔵です。おかしな事をしているときはご叱咤ください。よろしくご指導のことお願い申し上げます。