先々週号の1月28日号の週刊現代で獺祭の記事が掲載されました。また、先週は同社のウェッブ上でもその記事が公開されました。企業のクレーム対策コンサルタントに言わせれば「ここは沈黙して少しでも早く世間様に忘れられること」かもしれませんが、今までもこういう時に、空気は読まず、個人としての考えをお話してきました。少し、感想をここに記しておきたいと思い ます。

3ページにわたる記事で大見出しは 『大量生産で「味が変わった」という人も』『大人気!日本の名酒・「獺祭」が変だぞ』とすごいものです。

記事の中の小見出しも『5年前のブームから』とか『ビルの様な酒蔵』だそうで、挙句の果ては『虫混入は奢りの現れ?』と、見出しだけ見ると散々で、 内容は相当な批判記事が想像されます。

読んでみると、「味も昔と変わってしまったのではないか」というある日本料理店店主とか、「私自身も何百年も続く酒蔵で法被を着た杜氏が、櫂入れしている光景を思い浮かべて酒を飲みたい。実際、旧来の獺祭ファンからは、大量生産で味が変わったんじゃないかという声もある」という、ある日本酒ライター、「いつでも醸造できるなら、何月が新酒の季節かもわからなくなってしまう」というある老舗酒屋店主とかの、今までもよく聞こえてきた私どもへの批判の声が続きます。

痛いですよねぇ。さらに最後の方には「メディアでもてはやされた奢りが出た」といった声も聞かれる」と前出の日本酒ライターのお言葉。

「ブームになったらビルを建てて、大量生産になって、味が落ちて、経営者は成功に奢って生産拡大で目が行き届かなくなって痛い目にあった」と言いたいわけですね。でも、みんな誰かに聞いた話(それも誰か出所はわからない)だったり、憶測だったり、第一、なんで皆さん、「名無しの権兵衛」なんでしょうねぇ。

特に、日本酒ライターなる人は、人間ですから意見を異にするのは当たり前ですけど、いやしくも日本酒業界を専門としてやっていらっしゃるなら、自分の名前を名乗るべきですね。この意見はこの日本酒ライターのシンパの酒蔵達の意見が色濃く投影されているんだろうと思いますが、自分たちは安全なところにいて無責任な風聞や噂を流すことによって世論をリードしようとする、日本社会に色濃くあるいやな面に感じます。ぜひ、名乗って出てきてほしいですね。

ただ好意的な意見もあって、「杜氏の長年の経験と勘に頼ることなく、どうすればいいかを追求する哲学がある」「酒造業界全体の問題として、杜氏の高齢化と人材不足の問題があり、杜氏の働き方にムラがあるのも事実。問題を解決する手段として、酒造りをデータに基づいてマニュアル化することを進めてきた」と言ってくれた日本酒評論家の松崎晴雄先生。

「希少価値で値段が上下するような状況は間違っていて、絶対に品質を落とさずに、誰でも飲めるように生産量を増やそうと努力している」と記者に説明してくれたジャーナリストの勝谷誠彦さん。

南部美人の久慈浩介蔵元の「獺祭は機械で造っているとよく誤解されるようですが、分析器がずらっと並んだ最新鋭の蔵なのに、麹は手造りし、米は小分けにして洗う。要所要所は手作業を徹底している」と自分の酒蔵の作業を例にとりながらの説明もありがたかったですねぇ。

この方々は全部自分の名前を名乗っています。これって、現在進行形中で叩かれている「水に落ちた犬」の旭酒造を、マスコミを相手に、とばっちり覚悟で、利益もないのに弁護することで、頭が下がります。自分もこういう時はこうでありたい。三人に尊敬と感謝を。

でも、全体としては週刊現代編集部の公平さも表れている記事でした。おそらく企画段階では、例の日本料理店店主や日本酒ライターの、憶測や、「そうだったら気分が良い」「旭酒造だけなんでこんなに伸びるんだ。腹が立つ」という話で始まった、「獺祭の悪口が色々聞こえるけど、獺祭で一本記事を書いたら、おそらくもっとボロも出て、読者のブラックな欲望を満足させる記事になるだろう」という、週刊現代の上層部の指令が編集記者に下りた企 画だと思われます。でも、取材する間に記者の意見が変わってきたんだろうな、と推測される記事です。

まあ、刺激的な見出しは、通常、取材記者じゃなくて編集長が付けるそうですから仕方ありませんね。『獺祭の魅力に迫る』とか『獺祭の秘密』じゃ、誰も読みたいと思いませんからね。売るためには仕方のない事なんだろうなぁ、と思います。私が編集長でもこの見出しつけそうです。

でも、感動したことがあります。この記事が出た後、覚悟していましたが、 お客様などからマイナスの話が来ませんでした。中には「巧妙な宣伝だったんだろう」という人まで・・・。そりゃ、いくら何でも、ないでしょう。

やっぱりお客様というか良識ある皆様に救われたんだと思います。

皆様もご記憶の通り、昨年末には虫混入による同ロット全品回収というご迷惑をかけてお騒がせしましたが、あの時も感じたことです。今回も同じことを再確認して、改めて事務所の女性たちの朝礼で話しました。

「この中には何人もこれから結婚する人もいるだろう。今回の件でかかってきた電話とかおかしな人も多かったよね。苦労した電話も多かっただろう。人間不信になるような人もいただろう。でも、大部分の人は悪いことは悪いと注意してくれたけど、でも獺祭を信じてくれたろう。その証拠に、売上だって全く変わらず年末も正月明けも同じように売上が伸びただろ」

「同じことをこの週刊現代の記事とその後のみんなの反応を見ていて感じたんだ。大部分の人は正しいことは正しいとわかる信頼できる人なんだ。君たちが住んでいる日本の社会を信頼してほしい」こんなことです。昨年、高校を卒業してうちに入ってくれた、孫と言ってもおかしくない年の女性がにこっとしたのを見て、こちらまでうれしくなりました。

最後に、ミーハーが「売り」の蔵元として、「とうとう『獺祭』も週刊現代にのったか」とちょっと身内には自慢してます!!?!! ほんとにどうし ようもないですね・・・。馬鹿は死ななきゃ治らない・・・というか・・・。

でも、良い機会だから、是非、週刊現代さん、旭酒造の取材に来てくださいよ。お待ちしてます。

すいません、もう一つありました。これだけは我慢できない言葉がありまし た。記事冒頭の日本料理店店主の「言ってることとやってることが違うだろうってね」という話です。私が5年前テレビに出て獺祭ブームになったら、酒屋から獺祭を納入してもらえなくなった、と言っておられるようです。しか し、そのすぐ後に、「大量生産化も進んでいるようで、そんな酒に興味はない」とも言われています。業界や一部マニアやこのある日本料理店店主の非難も顧みず、何とか皆様に獺祭をお届けしようと、生産拡大してきたわけですから、この話は矛盾していますね。

旭酒造がブームになったらそれまでお取引している酒屋さんに納入を停止したり納入数量を減らしたという事はありません。おそらく、そのお取引のお酒屋さんが他を優先して、このお店に入れなくなったんだろうと思います。それとも、お酒屋さんが獺祭の正規取引店でなかった可能性もあります。その場合は正規店の店頭で買って納入するしかその酒屋さんにはそれまで獺祭を扱うすべがありませんから、入らなくなるのもうなづけます。そして、それを認めるのは格好が悪いから、このある店主には「獺祭が入れてくれなくなった」と言い逃れていた可能性も高いですね。いずれにしても、このあるご店主もここまで言うなら名乗って出てきてほしいですね。

最後に(こんどこそ本当に)、匿名で人の陰口や批判を言うんじゃなしに、匿名の人に陰口を言われる立場で良かったなぁ。皆さんの支援のおかげです。ありがとうございます。