先日、史上最年少でミシュランの星を取り、世界で30以上の星を持つといわれ、「フレンチの帝王」とも「神様」ともいわれるジョエル・ロブション氏の酒蔵見学が実現しました。これは前々号の蔵元日記でもご紹介したようにパリに両者が共同でダッサイ・ジョエル・ロブションを出している関係で、「とにかく、一度酒蔵を見てください」という私どものリクエストに彼が応える事で実現したものです。

しかし、来日前からドラマ勃発。それは、せっかくだからイベントにして多くのマスコミに取り上げてもらおうとする社内のスタッフと、とにかくロブションさんに「素」の獺祭を見てもらいたい・感じてもらいたい、という私の感覚にずれがあったこと。

だから、初めはPR会社も入って、事前に彼らがロケハンして、各作業室のロブションさんの見学とマスコミの動線の確認から、想定質問集を作って各マスコミに配る、なんて大げさなことになっていました。結果として、ロブションさんも私どもも芝居の役者の一人にされて、肝心の酒蔵の見学はどっかに行ってしまい、彼らの考える振付が大事なものになっていました。

それを、引っくり返しちゃったんですよ。抵抗があって。もっと単純に、世界のロブションさんに獺祭の酒蔵が何をしているか見てもらいたかったんです。と、いうよりもそんな懸念を口にした私に、「この人は馬鹿かよっぽどケチか」とおそらく呆れたPR会社の方から断ってきました。間に入ってPR会社を紹介してくださった会社には申し訳ないことしたのですが・・・。ほっとしたのも確かです。

そんな一悶着もあったうえで当日、岩国空港へロブションさん到着。当日、なんだろうと遠巻きに眺める乗降客の皆様と、おそらくテレビカメラだけで6台を超える一大取材陣とともにお迎えしました。これでPR会社を通してさらに広報したらどんなことになったんでしょうね。

まず、周東町高森駅そばのおそらく日本最大規模じゃないかと思うんですが、32台の吟醸用精米機の並ぶ精米工場にご案内して、それからさらに10分かけて山の中の酒蔵に移動し、本蔵を一時間かけてご案内しました。0.1%の吸水率にこだわり人手だけで洗う洗米にびっくりし、洗米ロボットに興味津々(洗米ロボットは出来が悪くてまだ思うように動かず、そんな未完成のロボットに感心してもらっても困るんですが)。10人以上が一部屋に従事する麹室の作業と出来上がった麹の品の良い甘さに心惹かれた様子でした。

最後にぶら下がり取材の報道陣の皆様へのコメントで、「こんな清潔な環境だからこそあの獺祭が生まれた」「まるで時計職人のような精緻な酒造り」との言葉をいただきました。まあ、うれしかったですねぇ。「世界のロブション」の賛辞ですから。そりゃ、「食の神様」なんだから彼は見えると思うんですね、「粗(あら)」も。だから怖いのも怖かったんです。 

ところで、その日はこちら泊まりでしたから、夜の食事はご一緒させていただきました。その時のこと、とにかく食べるのがロブションさん早い!! 私が特別遅いとは思わないんですが、私の食べるスピードの三倍ぐらい。

出てくる料理は一皿一皿粒よりでした。美味しかったんですよ。上質な料理で有名な、その旅館の料理としても「自分史上最高」。美味しいものを本当に食べたければロブションさんと一緒に行くと食べられるという事ですね。当たり前ですけど、料理長も目の色が変わってましたから。

最後にロブションさんは「明日の朝食は何時から?」と確認して部屋に帰って行かれました。とにかく、その「食」に対する関心に感心!!!