最近、羽田空港の本屋の平台に山積みになっている本があります。書名は「労働2.0」。著者は、慶応大学在学中に吉本興業が主催する漫才のMIグランプリの準決勝に進出して話題になったオリエンタルラジオの中田敦彦さん。パラパラとめくってみました。最後あたりで目が点に。

「獺祭の話が載っている!」

内容はこんなことです。NHKから山口県の応援番組を作るから出演してほしいと頼まれたんだそうです。関係者いわく「山口って本当に何もないんだよ、どうしたらいいと思う?」。そこでハッと気づいたそうです。

以下原文のまま。「若者の熱い支持を集める銘酒「獺祭」。これこそ山口の希望ではないか――と思いきや、意外なことがわかりました。山口では、獺祭をあまりよく思ってない人が多いらしいのです。獺祭は、若い酒蔵がこれまでにない手法を使って作った酒です。原料はカリフォルニア米、品質の安定保持にAI(人工知能)を使用。歴史ある老舗の手法とは一味も二味も違います。そのお酒が成功したことを、地元の方々は素直に喜べないようです。
「日本の米を使わないお酒なんて」
「テクノロジーだか何だか知らないが、あの酒には伝統がない」
「海外で賞を取ったそうだけど、それがなに」
と、こぞって冷淡な反応。しかし唯一の希望の光を、当の山口県民が嫌ってどうするのでしょうか。むしろ今こそ、獺祭に学ぶべきではないでしょうか。」以上原文。

(中田さんありがとうございます。凄い誉め様・・・でも、あまり誉めると蔵元は木に登らなくてはいけなくなりますよ)

しかし、「山口県に良い酒米がなかったから、山口県に固執せず良い米を広く全国から集める体制ができた」のは本当ですが、カリフォルニア米は試験醸造以外使ってないですけどね。この地元の方々が悪口ついでに中田さんに吹き込んだんでしょうね。このあたり見ても、その手の人々の、自分の望む方向に世論を誘導するためには嘘でも憶測でも何でも言う、的な話が気になりますね。

本当は山口の(普通の)方々から熱い支持をいただいていて、それが今の獺祭に繋がっているというのは、実感しているところです。しかし、何らかの「獺祭を貶めることによって個人的な利害が発生する(一部の)方々」からこの手の恣意的な陰口はよく出ているようですね。これは一昨年の「週刊現代」の「獺祭が変だぞ」という記事http://melma.com/backnumber_29695_6484410/#calendarにもあったように、有ること無いこと言う人は必ず「某」誰々さんで、「名無しの権兵衛」ばかりなんですけどね。

腹立たしいのは腹立たしいのですが、仕方がないのかなぁとも思います。獺祭は(山口の山奥の小さな酒蔵だったのに)地酒の中で全国一の出荷量になってしまった。それも純米大吟醸だけで。つまり、既成の秩序を壊してしまったんですね。これを面白くない人たちは当たり前ですが相当数いて、陰に日向に何か言う、わけです。

ところで、これ自体は「出る杭は打たれる」という事ですから、もって瞑すべしですが、困ったことが起こっています。

それはフランスです。フランスでどうやらかなりしつこいネガティブキャンペーンをやられていて、これは相当こたえています。フランスの飲食関係者が最近異口同音に言うのは「獺祭は大企業で、機械で適当に大量生産で造っているから良い酒ではない」そうです。

日本国内やアメリカなんかの日本酒が先行している市場と違ってフランスのようなまだあまり知識のない若い市場だと影響が大きいですね。しかも、獺祭はそのフランス市場に「酒はきちんと管理しないとワインと違って劣化してしまう」「日本酒にはワインと違い、ドメーヌとかエイジングとは別の独自の品質の価値観がある」と、ある意味挑戦状をたたきつけている状態です。

これに対し、フランスのソムリエたちからすれば、獺祭の行動は面白くないわけです。「儲けになりそうだから日本酒を扱う。ただしワインと比べれば東洋の蛮族が造った格下の飲料だから、適当に扱うけれどそれで日本人達は我慢しなければならない」と彼らは思っているわけですから。ここにこの日本酒関係者のネガティブキャンペーンがスポッとはまるんですね。

本来は味方のはずの我が陣営の方から弾が飛んでくるわけです。ちょっと痛いですね。しかし、これじゃあフランスにおいて、ネガティブキャンペーンに熱心な酒蔵の酒のみが生き残ることになりますから、日本酒の将来は暗いですよね。それでも獺祭としては、ただ「自分たちにやれることをやる」のみですね。やりますよ。