(今回は教条的日本酒好きからは「獺祭は何考えてんだ」と非難を浴びそうですね)

「温め酒」を除いて基本的に獺祭を飲んで美味しい温度は11℃程度です。もちろん、状況にもよりますし、食べているものにもよります。例えば肉料理なんかの味の濃いものなどの時は少し低めに8~9℃でもいいと思います。また、繊細な味の料理と合わせるときは個人的には15℃ぐらいでもいいかなと思います。それと「寒造早槽」などの生酒の場合、5℃ぐらいの低温がいいですね。ま、とにかく冷酒で飲まれる方が美味しさがわかりやすいと思います。

しかし、こんな暑さの続くときにただ単純に冷酒だというだけだと少しつらい。例えば、先日、東京で評判の焼肉屋さんに行きました。5時の開店に向けて店の前で少なくとも3時半から並ばないと入れない店。30℃を超す炎天下のもと、1時間半立ちっぱなしで待つわけです。私も生まれて初めて日傘男子になりました。

汗だくで5時の開店とともにテーブルにたどり着いて、ここは「とりあえずビール」と叫びたいところですが、ビールだとメニューの最初の方に出る、経営者兄弟の弟さんが超絶的気合と技巧で細かく仕事をしたホルモンなどの内臓料理のおいしさがわからない。何より、数えきれない位の品目が出ますから、最後の「みすじ」や「さがり」など細かく肉の部位ごとに出てくる感動的なおいしさの焼肉をお腹一杯になってしまい食べきれません。

じゃあ、「獺祭のスパークリングで行くか」と言いたいところですが、これでもこの状況だと濃すぎるんですね。

ここで、選んだのが、「獺祭ロック」。つまり酒のロックです。大ぶりのグラスに沢山の氷、そこに一度に精々100ml程度の獺祭を注ぐ。これはいけますよ。いくらでも飲めてしまう。(「量を飲むのが良いんじゃない、美味しさを楽しんでもらいたい」と言い続けている獺祭の蔵元としてはこの発言は少しまずいかな?) でも、美味しいんですよ。しかもグラスに残った酒はだんだん溶けていくわけですから、さらにアルコール度数も下がっていく。最初はちょっとパンチの効いた、氷でキリっと冷えた酒が美味しい。それが、時間が経つと氷が溶けてきてそこに軽さと爽やかさが入ってくる。最後にダメ押しで残った氷をしゃぶるとチェイサー替り。

その日は、シャンパンもワインも押しのけて獺祭が主役でした。ご一緒したボルドー帰りのワインの専門家も「なんでこんなに獺祭はお肉にあうの??!!」と感嘆しきり。ぜひ、皆さんも試してみてください。

ところで、獺祭の蔵元として勝手なことを言うと、このお酒のロック、獺祭のようなきれいなタイプがあいます。濃くてガツン系の酒だと「苦さ」ばかり目立つようです。また、いわゆるパック酒のような酒だと酸っぱいだけで薄い酒になってしまう。お酒のロックには獺祭が良いですよ。

◆眠れぬ夜のお燗酒◆
もうそろそろ50年前ぐらいに流行ったテレビ番組、「時間ですよ」。森光子が主役で、堺正章や樹木希林が脇を固める。銭湯を舞台にして大ヒットした番組です。毎回必ず出る女湯のシーンにお父さんもお兄さんも、もちろん私も、目が釘付け!!。

その中にもう一つ印象的なシーンとして、銭湯の主人役の船越英二とおかみさん役の森光子の掛け合いが印象に残っています。夜遅く、なんとなく物思いにふける船越に割烹着姿の森が、「お父さん、眠れないんですか? 一本つけましょうか?」と、いそいそとお酒をお燗して持ってくる。「ああ、ありがとう」と言いながら、どてらを着て満足そうに、お酌されたお燗酒をすする船越英二。

これからの秋の夜長、眠れないときのお燗酒って、こういう状況にまさにぴったりですよね。ここで冷酒だと反対に目が冴えてしまい、眠れなくなりそう。こんな時、獺祭の蔵元はどうするか? 「銀のチロリで丁寧に湯煎して」・・・?、そんな、めんどくさいことしません。電子レンジで一発チン。

ただし、コツがあります。まず100~200ml程度の容量の目盛付きビーカーを準備してください。(ビーカーは百円ショップに行けばいくらでも売ってます) それでそのビーカーに165ml程度の獺祭を入れます。そしてあとは180mlになるまでミネラルウォーターを足します。(ここは国産にこだわってください。軟水だったら手に入りやすいもので良いですよ) それでこの割水したお酒を好みのお銚子に注いで、電子レンジで1分チン。この時間は調整してください。それとレンジの構造上、お銚子の上と下で温度ムラが出易いので、マドラーかなんかで一掻き。で、温まった獺祭のお燗酒を、佐賀のお殿様が飲みそうな唇を切る様な薄手の白磁の杯で飲む。最高ですね。

この自家製「獺祭・温め酒」は温度にコツがあります。ぬる燗ではありません。熱燗がバランスが良いのです。大体、杯の段階で51℃。よく「良い酒は45℃程度のぬる燗で」と言われますが、獺祭は熱燗のほうが良いようです。もう一つのコツは8%程度の水を足すこと。酒よりは水の方が安いはずですから試してみてください。

これも、一般的に言われる「燗上がりするごつい酒」より獺祭のような「きれいな酒」の方があいます。また、純米大吟醸の中でも、香りだけみたいな酒じゃなくてバランスの良い酒を選んで頂けるとグッド。これも欠点は、つい飲み過ぎてしまうことですね。飲み過ぎにご注意を。

「白玉の歯にしみとほる秋の夜の酒はしづかに飲むべかりけり」