新製品を出します。商品名は「新生獺祭」。

科学というか人間の「知」の進化というものは、個々人としてみたとき皮肉な結果を招きます。狩猟採集からしか食物を得られなかった人類が、農耕というものを発見した時点から、カロリー摂取には苦労しなくなったけれど、体型が小さくなったと言われます。また、狩猟中の事故などにより死んでしまうという危険は少なくなったものの、農耕という人類にとって画期的な発見は、個々の人間としてみたとき、長寿には寄与しなかったと思われます。

農耕や牧畜の発展による特定の栄養に偏った摂取カロリーの増加は成人病や生活習慣病の増加を招き、今や戦争や犯罪で死ぬ人より成人病でなくなる人の方がはるかに多いと言われています。

皮肉なことに、人間の「知」の発展は、人類として地球規模で見たとき他の生物を押しのけながら人口を増やすことにはプラスに働きますが、個人の寿命であったり、健康であったりという面ではマイナスに働くことが多いようです。

それは酒にも言えて、古来から酒は「百薬の長」と言われてきました。おそらく発酵の技術が進化する前の「猿酒に毛の生えたぐらいの酒」の時代には、他に発酵食品なんてないでしょうし、まさに「さほど苦くない良薬」だったろうと推測します。しかし、人のあくなき欲望による技術の進歩は、品質の安定と低コスト化には大きく貢献しましたが、その反面大切な何かを徐々に失ってしまったのではないでしょうか。

それでも、発酵技術の進化は止まりません。野生の酵母による汚染や腐る危険はなくなり、芳しい香りを持ちアルコールも高い酒を安定して造ることが可能になります。しかし、発酵技術の進化は「百薬の長」から酒をどんどん離れたものに変化させます。そして、技術の進化により量産できることは、相対的に酒の低価格化を招き、その結果、誰でもお酒の飲める社会が来ましたが、アルコールの過剰摂取による健康への被害も生まれてきました。

これは日本酒に限らず、ワインでもビールでもウイスキーでも、人間が発明したアルコール飲料はすべて同じ道をたどっています。醸造技術の進歩は少なくとも現代の人間の栄養状態の改善には役立たない側面の方が大きいのです。これは、「少しでも美味しい酒」を追い求めることによりお客様に「幸せな時間」をお届けしたいと考える、私ども旭酒造にとっては深刻な論理矛盾なのです。

この「新生獺祭」はそんなところに着目して古来の酒に習おうとしたものです。しかし、そこは獺祭ですから、「ただ古来の造りに戻ればいい」とか「自然のままなら美味しくなくてもいい」とは思いません。品質的には現代の優れた純米大吟醸が基準。しかし、古来の発酵の力は存分に盛り込みたい。

実は、ある大学の研究者の方からご提案とご示唆を受けて、商品化に向けてずっと実験と利き酒を繰り返してきました。しかし、私たちがたどり着いた造り方で行くとどうしても普通の獺祭と比べたとき、差があるのです。利き酒をしますと、微妙な差を感じます。この程度では意識しないとわからないレベルという事も考えました。

普通はここまで造り方で煮詰めたら、少し逆の方向に酒質をふってカバーすれば、と考えるのが常識的アプローチと思います。器用な酒蔵なら、そうするでしょうね。あいにく、獺祭は器用じゃないんですね。

また、すべての獺祭をこの造り方で造ろうとしましたが、持てる力の全てを少しでも美味しい獺祭につぎ込もうとする旭酒造にとって、結果に差があるのが分かっているにもかかわらず、全商品にこの技術を採用することはできませんでした。別商品として発売するのはこのような背景があるのです。

こんな新商品を発売します。お値段も開発費などが加味されてほんの少し高くなりますから、私たちにもどれだけ売れるかわかりません。当面は受注生産のような形と思ってください。私どもの取扱店にご注文いただきましても一週間とかお待ちいただくこともあると思います。ご容赦ください。
https://www.asahishuzo.ne.jp/store/ja/index.html(獺祭の買える店)

種類は二種類です。新生獺祭磨き二割三分と新生獺祭45です。ただ、これだけ飲んでくださいと言うんじゃなしに、他の美味しい酒や普通の獺祭など色々な人生の楽しみの中で少しづつ飲んで頂ければいいな、と思っています。あまり、このメルマガの中で商品宣伝はしないのですが、希望小売価格を記載させていただきます。

新生獺祭磨き二割三分  720ml 6,000円/180ml 1,700円
新生獺祭純米大吟醸45  720ml 2,000円/180ml  600円(以上税別)