この半年の海外市場の様子を見ていると日本酒の輸出がはっきり落ち込んでいます。中国を除いて、アメリカをはじめほとんどの国で前年割れが続いています。原因は、特にアメリカで顕著だったのですが、コロナの後半時期に飲食をはじめ消費が一気に高まったこと。「ステイホーム」の掛け声が効きすぎ続けたコロナ優等生の日本にいると分かり難いのですが、コロナ前半に無理やり抑え込まれていた消費がその反動で後半期に盛り上がったのです。「強いアメリカを取り戻そう」という国民的機運も後押ししていたと思います。そんなことで、実力以上の消費が続いたのです。

しかも、それを海上コンテナの不足が助長しました。コンテナが取れない、したがって輸入できない、ということが日本酒を扱っている現地の輸入会社の中に共通理解としてありましたから、「とりあえず有るんなら仕入しておこう」となり、酒蔵のほうは「コンテナをとればいくらでも需要がある。輸出は伸びる」という姿勢になっていたのです。これが実消費をはるかに超える売り上げとして一昨年から昨年にかけて続いていたのですね。

当然、実力をはるかに超えるモノの動きがあれば市場に在庫が停滞しますから売れなくなります。それがこの半年の日本酒輸出の統計金額の落ち込みだと思います。

ところがここで心配なのが中国です。先ほど「中国を除いて」と書きましたが、まだ数字上は105%と伸び続けているのです。「危ないなあ」というのが本音です。

「仕入れてくれてるんだからいいじゃないか」という方もいらっしゃると思います。しかし、ここにはいくつかの日本企業、そして「獺祭」が落ち込んだ罠と共通したものを中国企業に感じるのです。

日本を代表する企業や業界を代表する企業で起こってきた現場の不正。経営陣は「俺の知らないところでやった」と異口同音に言いますが、共通して言えるのは、経営者の現状認識が甘かった。その無理が社内の過剰な業績圧力や企業風土になり、結果としてM&Aの失敗や現場の不正の種を育ててしまった。

獺祭だってえらそうなことは言えません。同じことが起こりました。伸び続ける需要に応えようと現場がガンバリズムで無理を重ねている状況に気が付かない私。それは結果として管理不足につながり加水調整後の未攪拌事件となり、当該商品の全品交換につながりました。

自分が同じ失敗をしているにもかかわらず、偉そうに言って申し訳ありません。しかし、私から見ると今の中国の流通が日本の企業が陥っていた事態と同じに見えるのです。

ということで、中国について言いますと、よその国のことですし、私どもと取引のない会社も多いわけですから、私がここで「どうこう」言ってもどうしようもないわけですが・・・・・。心配です。うまく着地できればいいけど。いえ、何とか傷浅く軟着陸できることを中国で日本酒を扱っているすべての流通業者のためにも望みます。獺祭を取り扱って頂いている卸とはこの問題について腹をくくって話し合いをしております。私たちは取引卸さんには成功してほしいわけですから。

また、日本の酒蔵側に言及するのは「ただの同業者への牽制」と誤解されやすいのですが、日本側の酒蔵も安易に「売り込めばいい」のではなくて現地の状況を観察してほしい。下手な過剰売込みは日本酒全体の品質問題に発展します。また、個々のブランドとしても将来にわたる致命傷になる可能性があります。

ただし、これだけの悪条件を今の日本酒は世界の市場に対して持っているのですが、長期的には楽観しています。必ず市場は戻ってくる。そう思います。それまでは少し辛抱。

今回は景気の悪い話で申し訳ありません。この蔵元日記を書き始めたとき、ともすれば蔵元が求道者のように神格化されたり、反対に売り上げのためなら品質なんか後回し、みたいなよくありがちな思い込みに抵抗を感じていて、とにかく蔵元の本音を書きたいと思って始めたものですから。時にはこんな景気の悪い話も聞いてやってください。