
居酒屋めぐり
第二十五回「よし房 凛」(東京・根津)
【ホームページ】http://r.tabelog.com/tokyo/A1311/A131106/13018408/
(食べログより)
“谷根千”(やねせん)という言葉をご存知ですか?谷中・根津・千駄木界隈のことだそうですが、この名称が広まったのは実はほんの数年前のこと。言い得て妙で字面も楽しく、なんだか散策したくなるような響きがありますよね。なにしろ文京区在住ですから、この辺りはけっこう詳しいゾと自認していたのですが、訪れる散策客が増えるに従い、新しいお店があちらこちらにできており、この頃では歩くたびに新たな発見があります。お気に入りの隠れ家も開拓できそうです。今回はその中の一押しのお店、不忍(しのばず)通り沿いに面したお蕎麦屋さんの「よし房 凛」をご紹介いたしましょう。
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蕎麦前のしあわせ
東京は神田の生まれですから、麺といえばお蕎麦かと思いきや、父母も祖父母もなぜか、うどん派。そりゃ、お蕎麦も時にはいただきますが、わたしの子ども時代、食卓にのぼるのは、もっぱら小麦粉からできた麺ばかりでした。うどん、冷麦、うどん、そうめん、きしめんと来て、ようやく蕎麦という具合で、お蕎麦を待ち遠しく感じていた記憶があります。家族の意向にそぐわず、わたしは蕎麦派だったわけです。もっとも当時は、蕎麦前という楽しい時間なんて、つゆも知らなかったのですが。
「よし房 凛」の蕎麦前は素晴らしいです。美味しく(これが一番、大事!)行き届いていて体にも心にもやさしく作られています。
お酒は『獺祭 純米大吟醸 50』、辛味大根じゃこおろし、みそ焼きなどとともにいただきます。香りといいお味といい、ピリッとしまって粋なところが両者に共通している素晴らしさ。蕎麦派でよかったぁ。だって、こんなに素晴らしい時間を、お酒とともに過ごせるのですから。
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とにかく居心地がいいんです
明るく清潔感あふれる店内は、全部で十六席。下町のお蕎麦屋さんというと長居は禁物と心得るべきと言い聞かせられて育ったので、急いた気分になるものですが、「よし房 凛」は居心地がよく、お酒も蕎麦前も次々とすすんでしまいます。お料理は、卵のふんわりとした甘さがたっぷりの出し巻き卵、盛りだくさんの天ぷらの盛り合わせ、次のお酒は『くどき上手 純米大吟醸』をお願いしました。天ぷらは、一口ごとにサクッ、カラッ、カリッと音があがるほどに香ばしく、定番の海老のほか、いちじく、島らっきょ、白海老のかき揚げなどの珍しい材料や地元の谷中ショウガも添えられ、大満足。天つゆは、もったりとするみりんの味がせず、かつおの効いた辛めの味付けで、それも雑味のないきれい系のお酒によく合っていました。
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お酒とお料理がいいことが、居心地がいい理由の第一だとすれば、第二の理由は店内のやさしくあたたかい雰囲気を醸し出す、あしらいの素晴らしさです。玄関から店内まで、空間を上手に切り取りつつもさり気なく飾られた季節の花々、風情ある器、かわいらしい雑貨たち、そして見開きメニューに貼られたちぎり和紙などなど……そこここに奥様の心配りがあります。根津の地に開業して今年で六年を迎える「よし房 凛」。こだわりの蕎麦打ちをするべく、昔ながらのお蕎麦屋さんを営むご実家から敢えて独立したご主人とそのお店を、細やかに支えるお仕事ぶりが、訪れる客を和ませてくれるのです。
お店のコーナーには蕎麦場があり、この日はご主人が真剣に蕎麦を打つ様子を拝見する機会はありませんでしたが、次回はタイミングを見計らってウォッチングしたいものです。
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納得の蕎麦
蕎麦前でどんなにお腹いっぱいになってしまっても、スイーツと同様、お蕎麦は別腹です。それも、こってりした鴨せいろが食べたーいっ!という私のような客のために、ここには“なす汁せいろ”というメニューがあります。滋養と繊維質が豊富な野菜がたっぷり入ったあたたかい汁に、栃木県は益子産、常陸の秋蕎麦で、丹念に手打ちされたお蕎麦をつけていただきます。やさしい、けれど力強い、なのにちっとも押し付けがましくない上出来の蕎麦の味わいに大満足。重ねて言わせていただきます。蕎麦派でよかったぁ。
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来る時はJR上野駅の公園口を出て、上野の森を通りながら根津までやってきましたが、帰路は、つつじで有名な根津神社の脇の小道を抜け、向丘、白山、小石川へと歩き、播磨坂をあがって自宅に戻ります。雨も上がり、夜露を浴びた紫陽花が美しい初夏の夜でした。
今夜も素晴らしいお酒とお料理に出会える幸せに感謝して、乾杯!
蔵元の蛇足
いかがでしたでしょう。実は私もこの数ヶ月前にお邪魔したことがあります。前の席の男性の注文がゴボウ天蕎麦。からっと上がったゴボウ天の蕎麦の上にそそり立つボリュームと粋に蕎麦を手繰る男性の姿に見入ったものです。
昼酒と蕎麦のおかげで上着の前からせりでそうな腹をなでつつ駅まで帰る道すがら、昭和の東京の風情を残した町並みにいくつも美味しそうな店のあるのに目を惹かれ、自分の食いしん坊ぶりにいまさら納得。夜露を浴びた紫陽花に見入りながら帰路についた作者となんという違い!!
(蔵元 桜井博志 記)



















