大平由美の居酒屋めぐり

居酒屋めぐり

第六回 『吉本』東京都(新宿)

更新日:2007.05.11|居酒屋めぐり|

吉本HPは ⇒  http://www.ooyoshimoto.com/info.html

“明日 わたしは旅に出ます。
あなたの知らない人とふたりで・・・♪”

という出だしではじまる狩人による「あずさ2号」という歌をご存知でしょうか。中央本線を走る特急あずさ号は、今では東京駅発着ですが、この歌が流行った当時は新宿駅発着でした。新宿は、甲信越を中心とした地方の人々を迎える玄関口だったのです。
今回、訪れた『吉本』は、1970年創業。長野県飯田市出身の先代が、店を構える場所として新宿の地を選んだのも、そういった理由からだったのではないかと、お店を継いだ息子さん・大原慶剛(よしたけ)氏は言います。駅の西口を出て大手カメラ屋の後手に向かうと、居酒屋、食堂、レストランがひしめくように立ち並ぶ賑やかな通りに出ます。『吉本』は、その通りに建つ雑居ビルの3階にあります。のれんをくぐると、想像よりも広くて明るいお店に、初めてここを訪れる方は少し驚くかもしれません。そして、約60席ある店内が平日はほぼ満席に近いということに、再度、驚くことになるでしょう。

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南信州ビールと付きだし
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獺祭・三割九分と刺し盛り

 

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南信州ビールと付きだし

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獺祭・三割九分と刺し盛り

全国津々浦々から集められた銘酒がズラリ。壁に貼られた魅力的な銘柄を見渡しながらも、やっぱり取りあえずビールといきます。ですが、ここのビ—ルはただものではありません。全国地ビール醸造酒協議会で、ジャパン・ビア・グランプリを受賞している南信州ビールなのですから!気分爽やかに 乾いたノドを潤し、さっそくお酒をいただくことにします。まずはやっぱり獺祭から。店主が食中酒として最高と太鼓判を押す、『獺祭・三割九分磨き』に合わせたのは、新鮮なお刺身の盛り合わせ。繊細な造りの三割九分と、丁寧に包丁が入れられた鮮度のいい鯛のお刺身は相性がとても良く、大満足です。
ほどよく脂ののったカンパチ、しめ鯖などと一緒にするすると飲んでしまいます。

お酒のメニューはきれいに分かりやすく区切られているのですが、70種類以上もある中からズバリと好みのお酒を選ぶのはなかなか難しいもの。加えて、飲んだことのない銘柄をあれこれ試してみたいのが酒飲みの本性。そんな場合は、三銘柄セットがお勧めです。大体、常時6種類のパターンがあるそうですが、その中から、欲張って越後酒三銘柄と厳選酒門銘柄をチョイス。それぞれ特色あるお酒をしっかり味わえて、しかも1セット800円というリーズナブルさは感動ものです。しかも約一ヶ月に一回の頻度で入れ替えがあるので、来る毎にお酒のレパートリーがどんどん増えていきますよ。

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どこの県のお酒かすぐにわかります
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鶴齢、いいお味でした
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質の高い三銘柄セット

抹茶塩が添えられた天ぷら、セリのおひたし、塩イカきゅうりもみ、こちらでは定番と言われるほど人気の、鴨のだしでとった茸たっぷりのお椀、野鴨の網焼き・・・どのお料理もお酒をおいしくいただくために考え抜かれて生み出された筈。ですが、こちらの板さんは店主の大原さん同様、とても控えめです。『吉本』が、新宿で日夜、きつい仕事に耐えているビジネスマンに、こよなく愛されているのは、良いものをさりげなく出してくれる慎ましさに癒されるからなのではないでしょうか。

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厨房の板前さん
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黙々と働いていらっしゃいます
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幸せそうなお客様の笑顔

店内には先代の筆による書が飾られています。
春には苦味、夏は酸味、秋は辛味で冬は油味・・・
四季に恵まれた日本ならではの、食の知恵がそこにあります。素材を生かした料理とそれに合ったお酒を提供することに心を砕くこのお店に、わたしが伺ったこの夜も、秋田から出張で東京に来た男性がひとり、カウンターで静かにお酒を楽しんでおられました。そのお客さまは東京に来るたびに『吉本』にいらしてくださるのだと話してくださったのは、店主のお母様とは思えないほど若々しくかわいらしい女将さん。きびきびと働く女将さんのファンも多いに違いありません。

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『吉本』のテーマです
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充実のラインアップ

 

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店主の大原さんと

歌のラストはこうです。

"8時ちょうどの あずさ2号で 
わたしはわたしはあなたから 旅立ちます・・・♪"

新宿駅8時発のあずさ2号が廃止になるとき、この歌を愛する多くの人たちが国鉄(当時はJRではなかったんですよね)に、廃止反対の投書や嘆願書を送ったそうです。わたしにとっても、あの頃、新宿はどこか郷愁を誘う町でした。今では新幹線が開通し、信州はもはや遠い場所ではなくなりました。ありとあらゆるものが統率のないままにぶちまけられたような、もっともエキサイティングな町として世界に知られる新宿。その中で『吉本』は、都会で戦うビジネスマンや地方の人々を、昔も今も温かく迎え続けている玄関口であると、わたしには思えてなりません。

蔵元の蛇足

オーナーの大原さんは、お店以外で合う酒の会などでは、「三つ揃いをびしっと決めて、酒を飲んでも飲まれることなく、いつもちょっと早めに、礼儀正しく挨拶をみんなにかけて、爽やかに去っていく」と、まあ、こういう印象なんですが・・
・・・あれれ・・・この写真違いますねぇ。えらい、にこやか。首まで傾いてます。(NHKの「夢であいましょう」の司会者みたい。そんな古い番組、誰も知らないか・・・・)

でも、おそらく大平さんの酔っ払い度が伝染しちゃったんだな。ウン。

(蔵元 桜井博志 記)

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