★蔵元日記の「前書き」
本日、「緊急事態宣言」が出る予定です。私どもも初めての事態に戸惑うばかりですが、「経済社会活動を可能な限り維持」しながら、感染終息を目指す、日本政府の手法に対して一部からは疑問の声が上がっているようです。しかし、ここは日本社会の団結力を信じて皆様と共に(工夫しながら)耐えていきたいと思います。

そのうえで、コロナウイルスと闘うためには免疫力が一番大事。免疫力を高めるには食事が大事。毎日おいしく食べることが大事。もっと言えば、美味しく食べて笑顔になるのが大事。

と、なれば・・・、美味しく飲んで笑顔も有りですね。でも、飲みすぎ注意!!

と、いうことで本編です。(緊急事態宣言が決定される前に書きました)

【クラフト獺祭】

コロナウイルスが猛威を振るう中、皆様どうお過ごしでしょうか? リモートワークだテレワークだ、外出自粛に、政府の緊急事態宣言と、皆様も大変とお察し申し上げます。旭酒造でも銀座店の土日休みや平日の時間短縮など対応に追われています。

こんな中、聞こえてくるのは、家庭内のDVとか暗い話も漏れ聞こえてきます。今だから言います。美味しいお酒を「少し」楽しんでください。ご家族と、パートナーと。

くれぐれも飲み過ぎに注意を・・・。

我が家の先日の食卓はこんな感じでした。 先日の土曜日は山口はすごく良い天気でした。少し早めの夕食としゃれこみました。主菜は豚肉と水菜のしゃぶしゃぶだったのですが、最初の付き出しはコンビニで買ってきたクリームチーズに削りガツオを振ってしょうゆをかけたもの。

いいんですよ、そんな24か月熟成のコンテとか、36か月熟成のミモレットのチーズとかでなくても、安いそこらで手に入るもので。(ちなみにこの二つのチーズは獺祭によく合います。フランスのソムリエを集めてセミナーをするときは必ずこのあたりを出します。彼らが相性の良さに目を見張るのを眺めるのは楽しいですよ)

で、このクリームチーズを30年前に信楽焼の里に旅行した時に買った皿に盛り付けて、物は手軽で安いんですが、獺祭と合わせれば気分は最高。5時半ぐらいから暮れなずむ山並みを眺めながら(都会の街並みが懐かしいなぁ。コラッ!!ですね)ゆっくりと夕食を楽しみました。

で、その時に合わせた酒がこの前の蔵元日記でお話しした若手社員が造ったお酒です。ちょっと荒いかもしれませんが心の晴れる一本でした。

前回の蔵元日記から一か月がたち、前回御報告しました若手社員による酒造りの一本目が上がってきたんです。名前も「クラフト獺祭」と名付けまして、精米歩合は39%で、磨き三割九分と同スペックです。基本的には普通の獺祭と酒母や酵母も同一です。違うのは今回は若手二人だけによる酒造りという事です。

今までも若手社員による酒造りは実施していましたが、何回かやって限界が見えていました。まず、今まではチームが10人程度と大人数でした。そして酒母とかも自由に決めさせていました。すると、一チームの人数が多すぎて代表者以外は「ただやっているだけ」に陥ってしまうきらいがありました。そして、できる酒も様々で、評価のしようがないのです。たとえ出来が悪くとも、経験の少ない本人たちは「この酒母や酵母でこうやったのだからこれが個性」と思いがちなので、自分たちの酒の欠点に気が付かないのです。

こんな反省から生まれた二人一チームによる酒造り。一本目を仕込んだのは入社5年目で23歳のHと三年目で21歳のF。二人ともどちらかというと慎重なタイプで一本目に志願の手を挙げるとは思いませんでした。この二人が、洗米から麹づくり、仕込み、もろみ管理と主要な仕事のほとんどをやったのです。杜氏さんがする仕事のほとんどをしたと言ってもいいですね。もちろん、分析だけは旭酒造の通常スタッフが引き受けて、二人が仕上げた麹の力価なども分析して二人にフィードバックしたのです。その意味では通常の杜氏さんたちより少し有利な立場にいたとは言えますね。

実際の仕込みでは、もろみのBMD曲線(注)の山は低かったのですが、それなりに溶けていて後半もスムーズに切れていきました。と、こういうと、何の心配もなかったようですが、内心はひやひやしていました。口では、顔を合わせると「おっ、H杜氏、うまいこと行ってるか」なんて言ってましたが、横目でグラフを見ながら、「うまくいかなかったら、どうしよう」「彼らのプライドを傷つけないように立て直すにはどんなふうに言ったら良いんだろう」なんて考えていました。

しかし、案ずるより生むが易し、実際は大きな欠陥もなく無事に搾りまでたどり着きました。搾り当日の二人のうれしそうな顔。搾り途中の酒を、「会長、利いてください」と言って持ってきた顔は自信に満ちていました。

確かに搾った酒は、先にお話ししたように、ちょっと荒いけど、みっちりパワーもある。名のある地酒屋さんに並べても決して遜色ない出来栄え。瓶詰した日には思わず4合瓶一本、飲みきってしまいそうになりました。(飲みすぎ注意!!自分が飲み過ぎてどうする!!)

これなら次のKが仕込んでる酒も、Hと情報交換したんでしょうBMD曲線の山ももう少し高い所に行ってますし、良いでしょうね。獺祭の取扱店で出会うことがあったら手にとってみてやってください。次回から300mlが瓶詰めされます。

(注)BMD曲線; 発酵中の醪の比重と日数をかけたもの。この数値を毎日グラフ上にプロットしていくことによって曲線がグラフ上に描かれ、その曲線の出方によってできた酒の性質がわかる。