前々々回の蔵元日記で獺祭をサザビーズのワインオークションに出品したと報告いたしましたが、結果が出ました。出品した6本の内、2本が843,750円、3本が810,000円、1本が759,375円で落札されました。

ちょっと凄いですね。おそらく飲食店の価格とかでなく日本酒の単体の価格としては史上最高と思います。「値が付かなくて赤っ恥を描くかな」と危惧はしていたんです、ホッとしました。

この獺祭はどんなお酒かというと、まず使った米が山田錦のコンテストで優勝した50俵2500万円の米、それをタンク一本分に精米して仕込みました。搾るときに最初と最後の前後を外して良いところだけを取り、720mlで1000本ぐらいになるのがうちでは普通なんですが、これは23本だけ瓶詰めして後はみんな磨き二割三分のブレンド用に回しました。

つまり、悪く言えば、煽りにあおって、値がどう見ても付きやすくして出したということですね。日頃、価格はできるだけ納得できる価格で、そのためには変なコマーシャリズムもマーケティングも介在させないことを主眼とする獺祭からしたら180度の転換です。

「獺祭よ、おまえもか」と言われそうですが、言われても良いと思ってやりました。「今の日本酒が世界に出ていくとき高価格商品がないのが弱点」とは常に言ってきました。しかし、なかなか壁をぶち破れませんでした。

高価格のワインやマオタイ酒と比べても単純に品質で見た時、日本酒は決して負けていない。それなら彼らのように一本で数十万・数百万円の日本酒があってもいいじゃないか。しかし、これがなかなか難しかったのです。

一番の原因は日本の社会(特に日本酒業界)にある同調圧力です。だから外来酒であるワインやマオタイ酒は高くても受け入れますが、日本酒で今までの一般常識を超えた価格の酒が出てくると、粗探しをして引きずりおろすことになりがちです。

このあたりでみんな苦労していまして、福井の黒龍さんなんかも分かっているがゆえに私たちとは違う生き方ですが、長年にわたりご努力されていました。

今回のこの挑戦に関して言えば、「これは今の状況では獺祭にしかできない」「獺祭は獺祭にしかできないことをやらなければ価値がない」「それなら思い切っていくべし」ということでやったわけですね。これから日本酒業界でうちのような山の上り方でなく違うルートから高みを目指す酒蔵が出てくると思います。もしかすると同じルートでより高みを目指す酒蔵も出るかもしれませんね。

でも値がついて良かった!!