6月を最後にしてこの蔵元日記の配信を休んでおりました。「体調を崩したとかでは」と心配頂いた方もありましたが、申し訳ありません、実は酒蔵の中で人身事故を起こしてしまったんです。

「日本一安全な酒蔵」を目指してきた旭酒造としてはショックな出来事でした。事故そのものは、ホームページでもご報告し、ネットのニュースなどに載りましたからここで説明は致しませんが、「たら」とか「れば」がいくつも重なった事故でした。

事故の原因究明、そして二度と起こさないよう安全対策に心を取られていたというのが真実です。それと、私は酒蔵の経営者でこの事故の責任を問われる立場です。しかし、ともすれば自己正当化してしまうことも考えられます。それは事故を起こした当人の名誉のためにも申し訳ないことです。そんなことで、この蔵元日記の配信を逡巡しておりました。

すでに労働基準局からは「今回の事故は立件しない」という通知はいただいております。この規模の災害にして「立件なし」は稀有な事例とのことです。その意味では私どもの日ごろの対策が認められたという事でしょうが、それでも事故を起こしたことに変わりはありません。そして彼は二度と帰ってきません。

今でも、エレベーターの中なんかで出会うと、何となく照れ臭そうに挨拶していた彼の顔を思い出します。7月の初めに戻ることができたらどんなに良いことか。何より彼は優秀で熱心なスタッフでした。若手が二人だけで酒を仕込む「クラフト獺祭」の企画を社内で発表した時、最初に手を挙げて挑戦してくれたのは彼で、その酒の出来栄えにはびっくりしました。製造部長の西田に「あんたや僕が最初に造っていた酒と比べると段違いに高いレベルの酒だね」「若い連中の実力はここまで来てるんだ」と驚きながら話し合ったものです。

実はこの事故を通して私が考えたこと、考え方が変わったこと、それも大きく変わったことがあります。また、さらに今まで何となくやってきたことが新たな視点で見えるようにもなりました。また時を置いて少しづつお話しできればと思います。

何はともあれ、今回のご無沙汰のお詫びとご報告です。最後に、どんなに対策を取っても努力しても人間が生活している限り不慮の事故の可能性は常にあります。事故を防ぐのは最後は自分しかありません。皆様もご自愛のことを、心からお祈り、そしてお願いいたします。