先日12月22日、「最高を超える山田錦プロジェクト2021」の結審を終えました。結果そのものは1月15日に帝国ホテルで行います発表会まで公表できませんが、この12月2日に行われた予審で14点まで絞り込まれた選り抜きの山田錦から一位と二位の山田錦が選ばれました。さすがに三回目ともなりますと全国から出品された時点で素晴らしいものばかりでした。それをさらに14点に絞り一位と二位を決定したのです。

今回は審査員の先生方からも「疲れた」「大変だった」という声が多く聞かれました。というのも今回、審査基準を主催者である旭酒造が変更したからです。今まで国が制定したコメの等級検査の審査方向に準拠していた審査基準を、「それでは本当に優れた純米大吟醸を造ろうとするとき方向の違うコメになってしまう」という事から「真に優れた純米大吟醸を造ろうとする時に必要な資質を持った米」を目指して変更したからです。

具体的には今まで心白は大きいものが「優良」とされていましたが、それを「心白は入っていなければならないが小さく真ん中に入っているもの」に変更したのです。 これまで、心白の発現率80%以上というくくりはありましたが心白そのものの大きさには言及していませんでした。

心白とは米の中にある乳白色の部分でその部分が空洞を多く含む組織になっていることから白濁して見える部分の事です。通常の飯米などには発生しません。しかしこの空洞部分に麴の菌糸が入りやすいことから山田錦などの優れた酒米の優れたゆえんのように言われてきました。

しかし、心白はもろ刃の剣のようなところがあって、精米中にこの部分に砥石がかかると米が砕ける原因になるのです。山田錦は五百万石や雄町のように「ちょっとでもかかるとすぐ砕けてしまうから結果的に高精白ができにくい」というほどではありませんが、やはりかかると砕けやすくなります。特に獺祭のように23%以上磨くという事になると、如何に米を砕かず高精白を達成するかということは、優れた純米大吟醸を造る上で至上命題になります。(山田錦は他の酒米と心白の組成が違うのです)

ここがポイントになるのです。そうすると大きすぎる心白は邪魔になるのです。だから「心白は小さくなければならない」のです。「小さな心白がきれいに米粒の中心に入っている」でなければいい酒は造れません。今までのように大きな心白が優れていると思うのは、安酒を造るのならともかく優れた純米大吟醸を造るためには間違っているのです。

つまり今まで国のお仕着せの審査基準だったものを、旭酒造が「これが良い」と思ったものに変更したのです。今までの基準は酒造りには門外漢のお役人が飯米の基準から類推して「これでよかろう」と決めてしまったものにすぎないからです。このピント外れの基準を伝統的にお上に弱い酒造業界は何も考えずに後生大事に守ってきたのです。今回、これを否定し、より良い形に変えようとしたことが審査員の先生方の悲鳴につながったのです。

しかし、この審査員の先生方のご苦労により、15~6%までの精米にも耐える素晴らしい山田錦が選出されました。

実は酒米にはこんなピント外れの基準がいくつかあって、例えば「山田錦の含有水分が15%以下でなければならない」などの困った基準があります。15%以下まで乾燥させてしまうと精米時の胴割れ危険性が高くなるのです。しかし、「水分は少ないほうが実質の米が多いだろう」と思っているのかわかりませんが、15%以下なのです。

このことについては以前から何度も指摘してきましたが、個人が言っても駄目で、酒造組合などの団体から話が出ないと国は動きません。しかし、酒造組合はそんなことはどうでもいいことのようです。少なくとも今のところそのことを問題視する発言はありません。

まあ、この話はあとにおいといて、、、今年の審査基準変更の話です。おそらく、この方向で良い米を作ろうとすると、来年から農家は山田錦の作り方も変えていくと思います。それだけの対応力のあるやる気のある農家しか応募してきませんから。

来年からのもっと素晴らしい山田錦に期待しています。そして、今年の酒を素晴らしい酒に仕上げなければと責任を感じているところです。