
居酒屋めぐり
第二十三回「鮨野(すしの)」(台湾・台北)
二年半ぶりに台湾を訪れました。今回は、この4月から社会人となった娘を連れての三泊四日、完全なプライベートな旅の予定だったのですが、『獺祭』を置いてあるお店が増えつつある台北で、ビールとウィスキー(こちらでは、この二種類がアルコール飲料では主流なんだそうです・・・・・・)だけで過ごすのは、わたしの場合、やはり無理というものです。そこで、ビジネスマンが行き交う繁華街として有名な中山路からほど近い吉林路に、昨年オープンした「鮨野」におじゃますることにしました。
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素材は毎朝、築地から
店内は天井が高く広々しています。通路やテーブルとテーブルの間もたっぷりスペースが取ってある上、間仕切りがガラス張りになっているため開放感があり、東京でわたしが行く通常のお鮨屋さんとはかなり違う雰囲気です。台湾調とでもいうのでしょうか?にこやかに、でも静かに折り目正しいお出迎えを受け、カウンター席にと向かいます。
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まずは『獺祭・純米大吟醸 二割三分磨き』で乾杯することにしました。その日のオススメのお刺身もお願いします。店長は東京の二子玉川にある「逸喜優(いっきゆう)」というお鮨屋さんで修業・研鑚を積み、ご家族とともに台北に移られたという野村さん。毎朝、築地から空輸されているお魚が、その繊細な手つきですべらかに刺身に引かれていくのを見ているだけで、もう食欲が刺激されてしまいます。(イカのみが台湾産!) すーっと口の中に入ってきてふわっと広がり、甘やかで豊かな余韻を残す二割三分と、旬のお魚たちの饗宴に、日ごろの憂さ(そんなもの、あるの?と、よく聞かれますが・・・・・・)など吹き飛んでしまいます。
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お鮨屋さんに『獺祭』を!
白エビの昆布〆め、鰆の西京味噌焼きに続いて、お鮨を握っていただきました。入念かつ完璧に、お鮨のために仕込まれたネタと、小ぶりのシャリのバランスが素晴らしい。ミシュランで星がついているような銀座のお鮨屋さんでも、こんな風にお鮨って美味しいのでしょうか・・・・・・。銀座に限らず、実は東京のお鮨屋さんには『獺祭』を飲めるところが少ないので、正直なところ、最近はあまり足が向きません。美味しいお鮨と『獺祭』のために、来年も台湾に来ることになるのかもと思いつつ、次々とお鮨を平らげ、わが大食ぶりをあらためて実感するのでした。
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地元の人々に愛されてこそ
この夜の「鮨野」には、当方のほかに日本人のお客様がもう一組いらっしゃいましたが、それ以外は台湾の方たちでした。日本から旅行で台湾に来る人々は、何はさておき小籠包を食べることが第一の楽しみでしょう。マンゴーやタピオカを使ったスィーツ、豚肉のしょう油煮をかけた丼飯のルーロウファン、ゴマだれの涼麺、切干大根入りの玉子焼き、しじみのニンニクしょうゆ漬けなどの郷土色あふれる台湾料理、フカヒレ姿煮などの贅を尽くした広東料理と、この国での食の楽しみは限りなく奥深く、二泊や三泊の短い間に、日本食をはさむ余裕はないかもしれません。なればこそ、「鮨野」などの日本料理店にとって大切なのは、地元の人々や、昨年の秋から自由になった中国本土からツァーで来る人々に愛されること。野村さんは時間を見つけては台湾を歩き回ってこの国への理解を深め、北京語を学ぶ努力を続けながら、真っ向勝負で江戸前の鮨を握っています。日本の鮨、江戸前の真髄が台湾の人々に理解され、「鮨野」の味が根付いていくことを期待してやみません。海外展開を進めている『獺祭』も、日本からの旅行客やビジネスでの接待客が中心というよりは、ニューヨーカー、パリジャン、パリジェンヌなどの地元の人々の支持を得てこそと、様々なチャレンジを続けているのです。日本のお酒、日本の味が、世界にもっと受け入れられ、愛されるようになりますように。
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今夜も素晴らしいお酒とお料理に出会える幸せに感謝して、乾杯!
蔵元の蛇足
如何でしたでしょう。あのハルコダイのお寿司の繊細な包丁の入り方。美味しさが画面から伝わってきますね。いよいよ台湾の和食業界も第三世代に突入ということでしょうか。
最後に実用情報。この「鮨野」そして最近開店しました「清田」、この二軒は私の浅い経験から言ってもトップクラスです。しかも基本的に飲食の値段の安い台湾で生き抜いていくため同クラスの日本のおすし屋さんと比べても少し安めというか明朗会計に設定されているのは財布の軽い当方としてはうれしいところです。
鮨野 台北市吉林路22巷27號1楼
02-2581-7577
清田 台北市松山區富錦街367號1楼
02-2756-0755
(蔵元 桜井博志 記)
