大平由美の居酒屋めぐり

居酒屋めぐり

第二十六回「古賀」(山口・岩国)

更新日:2009.08.01|居酒屋めぐり|

のれんを分けて戸を開けた瞬間、そこはすでに異空間。何時間もかけて東京から辿りついたのですが、一瞬、自分が山口県の岩国にやって来たことを忘れてしまいそうになりました。外の現実とお店を結ぶ、お香がほのかに焚きしめられた玄関から続く十数歩の廊下を進むうち、客であるわたしの気持ちはリラックスしていくと同時に、矛盾しているかもしれませんが引き締まってもいったのです。今回は、『獺祭』蔵元のお膝元、岩国の地に創業して十年という、懐石料理の「古賀」におじゃましました。

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この暖簾の奥にどうぞ

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涼しげな演出にホッとします

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一歩一歩、期待が
高まっていきます

最高の素材を最高の状態で

「古賀」では、『獺祭 純米大吟醸』の二割三分、三割九分、45の3種類を飲むことができます。この品揃えなら、はじめは何といっても二割三分。
白ずいきのゴマあんかけをいただきながらの乾杯です。旭酒造は四季醸造。この夜の二割三分も2009年6月に絞られたフレッシュなお酒で、爽やかでほんのりフルーティな香りが素晴らしい。次のお皿はなんだろうと楽しみにしていると、目を見張るようなデコレーションで、見事なお造りが饗されました。瀬戸内海をはじめとした近海の幸をふんだんに取り入れた、色とりどりのお刺身です。平目の甘さと感触の絶妙なこと、上品な旨味が凝縮されたウニの口どけの様子は、言葉にあらわすのがはばかられるほどです。まさに吟味された最高の素材と、それを生かすための技術と提供方法がそこにありました。ともに楽しむお酒は、やはり吟味された山田錦をぎりぎりまで磨き、最高の状態で提供すべく造られた『獺祭』の二割三分。皆さま、いただきます。もう、これ以上の贅沢はありません。とても有り難いひとときでした。

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二割三分で乾杯!

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平目 サザエなど盛り沢山
氷の盛り皿で

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水槽内のおこぜとサザエ、
いただきました

酒を呼ぶ

次なるお料理はおこぜのオランダ煮。おこぜの旨味を逃さないためにカラリと揚げ、甘辛のしっかり味で煮たものです。皮ごとしゃぶりつくしてくださいと古賀さん。実はその前からかぶりついていました。(笑)オランダ煮というのは、西洋風の調理法や味付けを用いた料理のことで、徳川支配下の鎖国時代、オランダと清国とだけ貿易が許されていた長崎ではじまったとか。ふくらみと味わいのバランスがいい『獺祭 純米大吟醸45』と合わせて、おこぜが骨だけになるまで食べつくしたことは、お知らせするまでもありません……はい。

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実に、実に、味がよくしみていました

広島牛の石焼は藻塩でいただきます。適度な霜降りで品のいい甘さと旨味があったので、『獺祭 三割九分』にお酒を変えてみました。これが絶妙でした。食中酒として東京のお店で評価の高い三割九分の本領発揮というところです。そしてさらに、鱧しゃぶ。正直な話、鱧の美味しさを認識したのは、この四、五年のことです。東京で普通に生活していると、鱧という魚には、さほど出会うものではないのです。とまあ、言い訳はこの辺にしておきましょう。鱧にはやっぱり、酒です。ええ、きっぱりと言えます。断じて白ワインではありません。
「古賀」のお料理は、どれもこれもお酒を呼びます。お酒のあれこれを存分に楽しめるメリハリある構成が大切なんですね。

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ジュージューという音が
聞こえてきそう!?

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ユニークなかたくち
三割九分

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古賀さんの手を借りて、
しゃぶしゃぶです

おもてなし

〆のご飯は鯛の冷や汁。もうお腹いっぱいのはずなのに、口当たりのいい鯛のほぐし身とやさしいゴマだれが、冷んやりご飯とともにサラサラとはいっていくのが不思議です。ごちそうさまでした。

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冷や汁
夏にしか味わえません

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香ばしさとカリッとした
食感に感動

写真マンゴーのさわやかな甘さが
引き立つアイス

料理長である古賀さんは、来店のお客さまひとりひとりにどんなお料理を出したかの詳細を記録されています。それは、お客様に同じものを出さないこと(できうる限り)を、お店の哲学にしているから。これは、出来そうにみえてなかなか出来ないことだと思います。わたしが一時期、ワインに凝ったころ、とあるフレンチ・レストランに通ったものですが、そのときは、わたしが何を食べ、どんなワインを飲んでいたか、いつも覚えていてくださったのはソムリエさんでした。シェフでもマネージャーでもなく。「古賀」では、古賀さんがお料理を作り、お酒の話をし、サービスをしつつ、それを記憶と記録に残している……。これこそ、心のこもったおもてなし、と言えるでしょう。フランスから来日し、日本全国津々浦々、美食をし尽くしたトップ・ソムリエたちが、「古賀」に一番、感動したという理由は、このあたりにもあったのではないでしょうか。

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楽しげな桜井社長と古賀さん 話題は何でしょう?

今夜も素晴らしいお酒とお料理に出会える幸せに感謝して、乾杯!

蔵元の蛇足

いかがでしたでしょう。実は地方にいると、「良くこれでこんな値段をとるなぁ」とあほらしくなる店が多い(値段のつけ方だけ東京並み)。もちろん良い店・美味い店もありますけど、そんな店でも食材の鮮度の良さとかネタの大きさとかそんな素材だけを「売り」にしてる店が多くて、「ここが地方の限界なんだろうなぁ」と寂しくなる事があります。(ただし、お店側にたって言えば、料理そのものに努力しても私たち客側が掛けた努力ほど評価しないという現実があるのも事実です)

「古賀」はこの岩国で、地方ということに甘えず、真っ向から料理で勝負している稀有な店です。こういう店が地方にあるということはその地方の厚みになって行きます。フランスは地方にこれぞというレストランがいくつもあって、パリからただ食事をするためだけにTGB(新幹線)や車で2~3時間掛けても行く人が多いといいます。その店に行くためだけに季節になると渡仏する日本人客もよく聞きます。それはフランスの大いなる魅力になっています。

山口県のために、いえ、日本のために、こういう店にがんばってほしい。
(すいません。つい、気張ってべたに真面目になっちゃったりして)

(蔵元 桜井博志 記)

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