「農!と言える蔵元の会」という会が発足したそうです。全量ではなくても自家栽培米による酒造りをしている蔵が加盟の条件のようです。山口県からも酒井酒造さんが参加していらっしゃってそのニュースを興味深く読みました。

このニュースを読みながら30年前を思い出しました。当時、山口県内で山田錦を購入するのは至難の業でした。農協・酒造組合ルートでは弱小山口の酒蔵には山田錦は供給されず、さりとて県内で栽培しようにも「新しいことはしたくない」と農家は二の足を踏むばかり。

業を煮やして自分たちで栽培しようと約一町の田圃を準備し、自家栽培に乗り出したのですが、種もみは農協ルートでは供給してもらえず(3年間、「今年は無いけど来年は準備する」の空手形の連続!!)、自分たちであらゆるルートを使って手に入れ栽培しました。(注)

この空手形三連発は当時の私にとっては腹立たしい限りだったわけですが、この腹立ちの三連発が、農協・酒造組合の酒米購入ルートに見切りをつけ兵庫や山口県内の篤農グループとの山田錦購入ルート開発につながったわけです。今の獺祭があるきっかけとなったわけですから、当時の山口経済連と酒造組合の対応に感謝しなければいけないですね?!

でも、この山口のお仲間購入ルートを飛び出して、自分一人で購入ルートを作っていくのはやっぱり大変でした。兵庫・藤田地区の金井さんや藤原会長、岡山の田中さん、山口の村田さん(何回、言い合いしたかなあ)、栃木の海老原さん、新潟の豊永さん、今でも当時の皆さんの表情が目に浮かぶ、農家との良い出会いもたくさんありました。しかし、全農関係者とぶつかることは度々でした。

当時、全国的に山田錦離れになっていて、高価な山田錦の使用量が酒造業界の中でどんどん減っていました。農家は山田錦に見切りをつけて他の米に転換するとか農家そのものに見切りをつける、そんな状況になっていました。

獺祭はそんな中で「やっぱり山田錦で造った酒の質は群を抜いている」と思っています。「もっと山田錦が欲しい」と思っています。ところが全農は山田錦の供給量を増やしてくれない。片方では余っているから毎年生産量を減らしている現実があるのに。

それでも増やしてほしいから、うちに来る担当者を脅したりすかしたり、私にできることはみんなやりました。すいませんねぇ。でも、その担当者がその後、大出世しましたのは、山田錦の全農全体の扱い数量が結果として相当増えたからに違いないと勝手に思っています。

おかげで、「山田錦の価格を釣り上げた極悪人」のように言われたこともありました。(面白いのは、酒造関係者もですが、農業関係者から言われることが多かったんですね。どういう理屈だろう?)

また、「獺祭が一社で山田錦を独占して他の酒蔵が困っている」と悪評も立ちました。酒蔵や酒マニアの方から「もっと、他の酒蔵のことを考えて」と非難されたこともあります。ここまで山田錦が減ったのは酒造業界そのものの責任ですから、「よく言うよなあ」とは思っていましたが…。

そんな状況の中で孤軍奮闘、あっちに訴え、こっちに訴え、最後には安倍総理と林農水大臣にまで直訴する機会をいただき、結果として、30万俵台後半だった山田錦の全国生産量を
60万俵台まで押し上げたのは、個人的にも「やった感」はありましたが・・・。

そんな過程を通して、実は、ずっと日本の米作りに関して不安を抱いて来ました。こんな状況の中で本当に農業って良いのだろうか? 次世代の若者が農業に魅力を感じるだろうか?

この不安が今回の、最高を超える山田錦を作ろう。一等は一俵50万円/総額2500万円で買おう。「山田錦プロジェクト」につながったのです。
https://www.asahishuzo.ne.jp/yamadanishiki_project/

このコンテストは「良いものは高く」という事ですが、要は市場原理が入ってくるという事です。決して現状の山田錦に値下げ圧力をかけるものではありませんが、今までみんな平等と「思われていた」山田錦が、隣の農家の方が高くなる現実がやってくるのです。

コンテストが農業の関係者にかけるストレスは小さくないことは自覚しています。申し訳ないと思いますが、米作りの将来にとって大事なことと思います。きっと、将来、山田錦農家により大きな利益をもたらすと確信しています。

そしてもちろん、酒造りに携わるものとして、「最高を超える山田錦で酒を造ってみたい」。当たり前のことですが、その欲望に勝てません。もしかすると、素晴らしい山田錦に対して、獺祭の酒造りが勝てないかもしれない。それでもやってみたい。大失敗をするのか見事成し遂げられるのか、見てやってください。

最後に、このコンテストはずっと続けるつもりです。継続しなければ意味ありませんから。

最後の最後に、言い忘れましたが、このコンテストの選考最低基準を通すだけでも、農家は色彩選別機とかそれなりの設備投資がいります。田圃の選別から入る必要があります。相当優れた田圃のはずですから、品質をそこまで求めなければ、現状でも農家に多収穫という利益をもたらしている可能性大です。

無償でうまくいったら賞金が手に入るのではないんです。その覚悟を以て、福岡・徳島・山口・広島・岡山・鳥取・兵庫・奈良・滋賀・富山・新潟・茨木・栃木の18チーム48軒の農家が参加してくれました。この農家の皆さんにはいくら感謝してもしきれません。

(注)この自社栽培の山田錦が、獺祭の看板である「磨き二割三分」のきっかけになりました。約60俵/3600㎏の米を前にして思いついたのが23%まで精米する常識外れの純米大吟醸でした。